以前、蛇センターで鳥羽医学博士に「蛇の食餌」についてお聞きした時のことを紹介したことがあります。「蛇の食餌」は、1ケ月~2ケ月に1回であること、それで「蛇の糞」は、ほとんどが「爪」や「毛」であることも紹介致しました。完全消化に近いのです。骨も無くなるのです。硫黄結合した含硫アミノ酸で作られたケラチン、シスチンだけが残されて糞として排出されるのです。
肉体的には完成の域に達していて、水浸けにして、頭だけ出した状態で、1升瓶に浸けておいても、1ケ月以上生きています。こうして、糞、小便を排出させ、臭みを除いて、水を焼酎に入れ替えて「蛇の焼酎浸け」は作られるのです。それにしても、すごい生命力です。
この蛇の「血液」が、イカやタコ、或いはエビやカニなどと同じ「青い血」なのです。酸素と結合している状態で「青い血」に見えます。
哺乳動物の「赤い血」との違いは、「ヘモグロビン」でなく、「ヘモシアニン」なのです。要するにグロビンという蛋白質の基本骨格がポルフィリン環を作り、その中央に「鉄」が配位しているのが「ヘモグロビン」(ヘムは鉄の錯体)であり、蛋白質に直接「銅イオン」が結合しているのが「ヘモシアニン」なのです。
因みに、ヘモグロビンと同じようなポルフィリン構造で、中央に「マグネシウム」が配位すると「クロロフィル」になります。植物の葉緑体で「光合成作用」に携わっている「葉緑素」です。ここに、「マンガン」が配位すると「ビンナグロビン」になり、二枚貝の一種であるピンナの血液になります。ここに「バナジウム」が配位されると「ヴァナビンス」になりホヤの血液になります。
そこで、次にこれらの違いは、何なのか検証して行ってみましょう。
蛇からも、推測できるように、「ヘモシアニン」を血液に持つ生物は、地球上に酸素濃度が薄かった、5億年~25億年前の生物である可能性が高いのです。そして、地球が変化して酸素濃度を高めなければ、確実に哺乳動物よりも蛇の方が優れた肉体を持っていたのです。 |
ヘモグロビンとヘモシアニンの違い
ヘモグロビンは、ポルフィリン環の中央に鉄イオンがあり、そこに蛋白質が結合しています。ヘモシアニンは、銅イオンに蛋白質が結合しています。
構造的には、ヘモグロビンは、1つの鉄イオンのポルフィリン環が4個結合して、ワンセットになって存在しています。ヘモシアニンは、2つの銅イオンに蛋白質が結合して、普通10個が結合して中空の円柱構造を形成して存在しています。
こうした構造上の違いで、ヘモグロビンの分子量は64,500であるのに対して、ヘモシアニンは2,500,000以上の巨大な分子構造をしています。
さて、こうした構造上の違いは、酸素の取入れ、運搬という側面からとらえると、断然にヘモシアニンの方が優れています。
地球上の大気に酸素が少なくなっても、或いは水中で酸素の取入れが困難な環境下でも、ヘモグロビンよりも酸素の取入れ、運搬には優れています。
但し、酸素は取入れ、運搬が目的ではなく、血液で補給する先の細胞に、酸素を受け渡さなくてはなりません。酸素を離す効率も、求められるのです。
実は、酸素濃度が低い環境下では、これもヘモシアニンの方が優位なのです。
しかし、環境が変わり、酸素濃度が高くなると、こうは行きません。ヘモグロビンの方が有利なのです。
これを説明するのには、「ボーアの効果」を知らなくてはなりません。
ボーアの効果とは、血液内のpHにより、ヘモグロビンの酸素解離が変化する効果のことです。その要因は血中の二酸化炭素量です。ヘモグロビンは、二酸化炭素が無いと、取り込んだ酸素のうち18%しか放出できませんが、組織内に二酸化炭素が40mmHgあると約50%、更に80mmHgあると約70%を放出することができるのです。 (「三輪血液病学」)
大量生産、大量消費型のヘモグロビンの世界
ヘモグロビンは、鉄イオンを配位したピロール環が4個集まって、1つのユニットを形成しています。これが、酸素欠乏の細胞下では、一挙に酸素を放出します。
酸素を吸着する場面でも、酸素を吸着すればするほど、吸着性(親和性)が高まります。酸素を吸着していないヘモグロビンよりも、酸素を既に吸着しているヘモグロビンの方が、余裕がある枠内に酸素を吸着します。逆に放出する場面でも、酸素を沢山かかえたヘモグロビンの方が先に酸素を放出します。
どんどん取入れて酸素を使い、それによって更に酸素を取入れ可能にし、一挙に放出することもできるのです。
要するに、ヘモシアニン型のようにゆったりと完全消化、経済的に着実に使う、不要な争いや殺生はしない、という生物体系でなく、スピードと爆発的なエネルギーで相手を圧倒する、弱肉強食の世界を実現したのです。どんどん消化し、他を制圧してしまう。未消化でも、食いつくす、文明よりも戦いに勝つことが大切、このような生態系を作り出したのです。